
東日本大震災では、連日、衝撃的な映像がテレビから流れてきました。
それらの映像から、私たちは多くのことを学ぶことができます。もっともショッキングで、臨場感が溢れているのが、この映像です。
釜石市の根浜にある宝来館というリゾート・ホテルの女将さんが、ご近所の人たちを助ける動画です。
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宝来館は釜石の海岸の一段高い場所に建っているため、津波のときの避難所に指定されていました。
しかし、女将さんは、「虫の知らせ」のような霊感に導かれて、宿泊していた旅行客と従業員を、ホテルの裏山に登らせて避難したのです。
しかし、女将さんは、まだ津波の襲来に気づいていない近所の人たちに知らせるために、いったん登った裏山を下りて避難するように知らせて回っていたのです。
そこに津波が…。
映像で、いちばん後ろ(海側)に映っている人は、最初、ノンビリ歩いていましたが、女将さんの悲鳴に突き動かされるように、しまいに全力疾走で走ってきます。
女将さんの絶叫が、その人の「避難スイッチ」を入れたのです。
裏山でその様子を見ていた人たちは、てっきり、女将さんは波に飲まれたかと思っていたようです。
ところが、腰まで海水に浸かり、少し流されたものの、自力で山に這い上がってきたのです。
女将さんも含め、近所の人たち、宿泊客、ホテルの従業員、全員、無事でした。
助かった人は、どんなことをしたのか。
逃げ遅れる人とは、どんな行動をとるものなのか。
何が生死を分けたのか。
今回の大震災でニュース報道番組に、たびたび出演していた防災・危機管理のアドバイザー、山村武彦氏によると、「非常呪縛」を解くことができた人が助かったということになるようです。
山村氏のサイト:必読【防災・危機心理学】
「非常呪縛」とは、災害や事件など、非日常の状況が発生したときの「無思考状態」に陥ったときや、あれもこれもやらなければならないと思ったときに「優先すべき行動が混乱しているため判断ができなくなってしまう」ときなどに顕著に見られる現象、とのこと。
なぜ、「優先すべき行動が混乱しているため判断ができなくなってしまう」でしょう。
それには、多数派同調バイアスと、正常性バイアスが作用しているとのこと。
多数派同調バイアスとは、過去経験したことのない出来事が突然、自分の身の回りに起こったとき、自分の周囲にいる多数の人の行動に左右されてしまう、という「思い込み」、「先入観」のようなもの。
何が起こっているのか理解する時間が与えられず、どうして良いか分からない時、 周囲の人と同じ行動を取ることで、きっと乗り越えることができるだろうと思い込んでしまうのです。
つまり、自分が迷ったときは周囲の人の動きを探りながら、その多数の人たちと同じ行動をとることが安全だと思い込んでしまうのです。これが「多数派同調バイア ス」(集団同調性バイアス)。
適切なたとえではないかも知れませんが、株式投資などで、急な暴落、いわゆる「ナイアガラ」と言われている場面に遭遇すると、カラ売りでない限り、瞬時に判断しないと大損してしまいます。
暴落の原因が、そのときはわかっていませんので、果たして売っていいのか、それとも、一時的な調整だから、このまま保有していたほうがいいのか、とっさに決断できなくなるのです。
逃げ遅れた結果、含み損を抱えてしまった人は、「これは仕手の騙しだ。すぐに戻るはずだ」と、自分に都合の良いニュースだけ探すために、株式の掲示板をあちこち見るようになります。
そして、株式掲示板で自分と同じ立場の人を探し、同調を求めるのです。
「含み損を抱えてしまったが、これだけ多くの人たちが、自分と同じなのだから大丈夫」という根拠のない自信によって自分を勇気付けます。
しかし、その後、じりじり下がり、長い間、塩漬けとなってしまうものです。塩漬けだけなら、まだいいのですが、知らないうちに管理ポスト入りなんてことが多々あります。
正常性バイアスは、「こんなことが起こるはずがない。これは現実ではない」と捉え、きっとこれは仮想の出来事に違いない、という心理が働き、「異常事態と認識する」いうスイッチが入らない状態。
正常性バイアスに縛られてしまった人は、「まさか、こんなことが起こるなんて想像もしていなかった」と言います。
つまり、「想定外」のことが目の前で起こっていても、それを認識できなくなってしまうのです。
多数派同調バイアスと正常性バイアスが相乗して、自分を「非常呪縛」にかけてしまう。それで、身動きができなくなったり、判断がつかなくなって、固着してしまうのです。
下の動画は、壊滅的な被害を出した南三陸町の様子です。
左下に、ひとかたまりの人たちがいます。
津波の轟音に気がついて、慌てて家から人にとび出たものの、逃げようとしていません。車椅子の人が二人いて、その周りを何人かが取り囲んでいます。
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もちろん、この人たちは、津波が来ることは防災無線の呼びかけで知っていたでしょう。
しかし逃げなかったのです。
「ここは町のいちばん奥の高台だから、津波はここまで来ないだろう」と、この付近の人たちは考えていたのではないでしょうか。
この辺りの家は、みんな避難しないから、自分たちも家の中にいようと。
多数派同調バイアスが働いたのです。
そして、轟音に驚いて家の外に飛び出てみたら、自分たちが「想定内」として考えたことが、あっさり裏切られて、津波がみるみる押し寄せてくる。
それでも、家の前に立ち止まったままです。車椅子ごと、移動させようとしているのです。
車椅子など捨てて、背中に負ぶって逃げていれば…。それでも、車椅子にこだわっています。
そして、逃げる時間はあったのに、とうとう津波は自分たちの足元にまで迫ってきたのです。
それでも立ち止まっているのは、非常呪縛にかかってしまって、足が出なくなってしまったのです。
硬直した状態、非常呪縛を解こうと、小高い丘に避難した人たちが、「早く逃げろー」と大声で叫んでも、聞こえなかったか、非常事態だと認識できなかったか、です。
最初の動画に出てきた宝来館の女将さんは、いったん避難したのに、自分の命の危険をも顧みることなく再び下に下りて、近所の人たちに絶叫して避難を呼びかけました。
この女将さんは、自分のホテルが津波の避難所に指定されていたというのに、それも信じることなく、さらに高台にみんなを誘導したのです。
なぜ、そんなことができたのか。
ホテルなんて壊れてもいい。「命あっての物種」をよく知っていてたのでしょう。
下の動画の南三陸町の場合も、同じように先に避難していた人たちが避難するように叫んでいます。
でも、高い丘の上から、「逃げろー」と言っただけでは、逃げ遅れた人たちは、非常呪縛にかかって身動きが取れない状態ですから、どの方角に逃げていいのか分からないのです。
こうしたときは、「逃げろー」ではなく、「あと100mで津波が来るぞ。目の前の丘に登れー」といってあげれば、伝わったかも知れません。
「あと100m」、「もう目の前まで来てる」と現実的で具体的な情報を加えれば、それが「避難スイッチ」になったかもしれないと思うのです。
宝来館の女将さんは、接客業を通して、人間は具体的に示さないと、混沌とした状態では何も行動に移せないことを知っていたのです。
だから、自ら山を下りて知らせに行き、そして自分が大声を上げながら先頭を走って誘導したのです。
簡潔に、短く、重要な情報を与えることが、非常呪縛を解くトリガーとなっていることを示す例です。
潰すための原発-これをクライシス・マネジメントのコンセプトにすべき
12日に東電が福島第一原発に海水を注入する決断をしたとき、夜に放送されているニュース番組のキャスターが、このように言いました。
「東電は福島第一原発を廃炉にすることを選んだようで、良かったです」。
私は、唖然としてしまいました。
これがマスコミの良心なのです。
廃炉にすれば莫大な建設投資が無駄になります。東電は、それでも廃炉にすることを選んだので懸命だ、とこのキャスターは言ったのです。
そこには住民の命を守る、世界に迷惑をかけない、という発想がないのです。
あれほど悲惨な三陸の映像を観ても、まだコストのことを気にしているのです。
キャスター失格である以前に、人間として問題があることは間違いのないことです。
福島第一原発は、次に大きな余震が来たら、どうなるか分からないと、急遽、非常用ディーゼルを高台に移転する工事に取り掛かるそうです。
これではダメです。
原発に関わる人たちにもっとも欠如していること。
それは、国民の生命・財産を背負っている、という気概です。
日本の原発の耐震基準は、今回の地震のような震度7に耐えられる設計になっていません。
そのこと自体も大問題なのですが、もっと重大なことは、原発の発電コストばかりに目が行って、災害復旧コストを視野に入れていないことです。
一度、致命的な事故を起こせば、日本のみならず、世界の破滅にもつながりかねない、という視点がないことのほうが恐ろしいことです。
そして、その国を滅ぼすことにつながるという想像力の欠如が問題のです。
耐震補強工事をするのはいいのですが、何より大事なことは、耐震基準を超えた地震が発生した場合は、間髪いれず廃炉を決定し、速やかに冷却作業に移行できるように、クライシス・マネジメント全体の枠組みを組み立てなおすことです。
原発を、つぎはぎだらけにしても存続させようとするのではなく、安全に潰すことを最優先に考えて、原発建設を考えるべきなのです。
であれば、地震で大災害になることがわかっているような欠点の多い原発など、最初から造らないはずだからです。
「すぐに潰せる原発」。
そのための工事に即刻、取り掛かるべきです。
こと原発プラントに設計者、技術者、科学者には、「潰すコンセプト」が必要であり、だからこそロマンが大切なのです。
そのロマンとは、宝来館の女将さんのような、みんなが生きていてこそ人生は楽しい、という人生観のことです。
ホテル一個くらい津波にやられても、みんながいれば幸せという価値観であり、幸福感が大切なのです。
私には、東電の幹部連中の顔に、そうした人の感情が感じられないのです。
生死を分ける 災害時 とっさの判断力 [単行本(ソフトカバー)]
三雲大 著 2008/11/22刊
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45ページの引用:
「何となくそれに同調したほうが安心感を得られる心理(多数派同調バイアス)に囚われることがある」
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